okamurashinnのブログ

表象文化論、アニメーション、キャラクター文化、現代美術に興味があります。

話数単位で選ぶ、2018年TVアニメ10選

たまたまTwitterで見かけた新米小僧さんの企画が面白そうなので、年末総決算としてエントリー書いています。ルールは以下の通りです。

 

※追記(’18/12/30)

『色づく世界の明日から』#06→#13「色づく世界の明日から」に変更しました。

 

ルール
・2018年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。

 

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ゆるキャン△』のもつ「距離感」を最も感じられるエピソード。 しまりんとなでしこは違う場所へキャンプに行きながらも、SNSでお互いの近況を報告しあう。二人の絶妙な、心理的・物理的距離感を巧みに表現している本作の中でも、特にエモーショナルな画面が展開されたエピソードだった。

 

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母・貴子が完成を目指していた天文台に報瀬は向かい、そこで見つけた遺品のノートパソコンを開くエピソード。 貴子が行方不明になった時から送り続けていた報瀬のメールは、彼女自身が初めて開封することになる。届きようのなかったそのメールは、報瀬にどうしようもなく母の死という現実を突きつける。と同時に、亡き母を追いかけてきた彼女の時間は、届かないメールを受け入れることで再び動き出したのだった。

このメール演出は今年のTVアニメベスト演出と言っても過言でないほど素晴らしいものだった。これまでのエピソードで活動報告としてコツコツと打ってきた母へのメール描写は、このシーンをもって結実する。たとえ仲間との「旅」がどんな結末を迎えたとしても、自分自身で踏み出して歩んだという経験に価値がある。

 

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御刀をもって、荒魂を斬り鎮める「刀使」と呼ばれる少女たちの物語。

イチキシマヒメと同化し、強大な力を持った十条姫和。盟友である彼女を前にした主人公・可奈美は、最強のライバルを前にして勝負を挑まずにはいられなかった。

可奈美が持つ独特のオーラの正体は、『咲-saki-』の宮永咲を彷彿とさせる自分が打ち込むものへの狂気、冷徹、非情さだろう。可奈美の姫和に対する二律背反な態度。剣技を争う相手にかける非情さ、そして友人にかける優しさを同時に表現した屈指のエピソードであった。

 

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 主人公・カオスは同世代の漫画家と暮らす寮生活の中で、一つのネームを切り出した。それは女子高生の可愛い仕草や、友人との何気ない時間が詰まったものだった。

本作で描かれるカオスとその仲間たちの日常は、カオスその人によって作中作として描き直される。カオス自身が彼女の体験を描きなおすという行為によって、より実在感を持った「日常系」として結実したのだ。

このエピソードはまさに、表現としての「日常系」の誕生を描いたものと言えるだろう。

 

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舞台を志す少女たちにとっての演じるということ、日常を生きることが描かれた作品。

主人公・華恋が通う演劇学校に、幼馴染のひかりが転校してくる。ひかりが夕方に寮を抜け出す姿を見た華恋は、彼女を追いかけ学校の地下に迷い込む。

突如ミュージカルのように「真剣」勝負をするひかりと同級生・純那の「レヴュー」は、その口上も相まってミュージカルの形式を模したものとしての『少女革命ウテナ』における「決闘」を彷彿とさせることだろう。Aパートの日常からBパートの非日常へ、圧倒的な展開で視聴者を置き去りにする演出は見事としか言いようがなかった。「レヴュー」は同時に、舞台上で演じることと日常を生きることの間で揺らめく、彼女たちの生き様そのものを描くものだと我々は気付かされるのだ。

 

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ゲーセンで遊ぶ主人公・春雄とゲームが上手い少女・晶の交流を描く。

いつものように晶とともにだらだらとゲームに勤しむ春雄が描かれるAパートから、春雄と晶の別れを描くBパートへ。3DCGモデルながらも一枚絵を駆使しつつ描かれる情景は、高い水準を誇っていた。

 

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好きを知らない少女・侑と自分を好きになれない先輩・燈子の恋愛モノ。

侑が燈子に姉がいたという過去を知り、大胆にも燈子を姉の呪縛から解放しようと説得する場面は、この作品屈指のシーンと言えるだろう。川の飛び石を渡るところからも『たまこラブストーリー』の告白シーンを連想させるが、あのシーンとはまた違った緊迫感がここにはあった。

侑が姉のことを言ってからは、燈子の顔が見えないようなショットでこのシーンは構成されており、燈子が侑の方に振り向くスピン・アラウンドのショットでもそれは徹底されている。燈子が侑の提案を否定するショットで燈子の顔は正面から映され、その冷徹な表情が強調されるのだ。

 

  • 『SSSS.GRIDMAN』#09「夢・想」

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誰からも愛される存在としてのアカネを裕太、六花、内海それぞれに夢で見せつけ、束縛しようとする。三人はアカネの夢に囚われるが、それぞれ分断されたことで友人の欠如に気づくことによって夢から脱出するのだった。

アカネのつくる夢の世界は、日常の断片をつなぎ合わせたコラージュのようで、あり得たかも知れない可能世界を示唆する。しかし、その世界さえ綻びを見せて壊れてしまった。その脆さはアカネが装うキャラクター、つまり「新条アカネ」の脆さでもあるのだ。

 

  • 『となりの吸血鬼さん』#11「風邪の季節」

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人形や可愛いものが大好きな少女・灯と360歳の吸血鬼・ソフィーが繰り広げる日常劇。

ソフィーはふとしたきっかけで自分のオタクコレクションの整理を始める。整理をする中で、ソフィーが貯めてきたコレクションを振り返ることになるのだが、十数年しか生きていない女子高生たちと数百年を生きる吸血鬼たちのズレたコミュニケーションが日常系に批評性を与える。

日常系というある限られた時間の日常を切り抜くジャンルに、吸血鬼という長大な時間を内包した存在を登場させること。それは、描かれる日常の一コマが長い時間の一部でしかなく、それでも灯のような女子高生がその日常を謳歌しているということを浮き彫りにする。ソフィーが物語る思い出は、灯の人生のスケールとはかけ離れている。しかし、ソフィーは彼女を対等な存在として扱い、日常をともにするのだ。

スケールも価値観も全く違う二人の日常がクロスオーバーする光景は、日常系に「他者」を取り入れる挑戦とも言えるだろう。(近年でも『セントノールの悩み』(2017)『小林さんちのメイドラゴン』(2017)など近い作品もあるが、そちらは未見)

 

  • 『色づく世界の明日から』#13「色づく世界の明日から」

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 未来から時間魔法を使い、やってきた少女・瞳美とその時代の絵を描く少年・唯翔のラブストーリー。

未来へと帰る瞳美に向けて、琥珀たち6人がそれぞれの想いと別れを告げる。唯翔が瞳美への想いを押し込めたまま別れを告げようとしたその時、魔法が暴走する。

このシーンでは、瞳美と唯翔の心情に呼応するように、彼らの世界に色がついていく情景が描写される。自分の心を抑圧していた瞳美と唯翔は似た者同士であり、二人はお互いを必要としていたことに気づくことで、自分の未来を歩み始めることができた。

世界に色がつくということは、瞳美が自分と向き合い、生きる世界をアクチュアルに感じとれたということである。本作の達成はこのエピソードで見られるように、感情と表現が色という形で連動し、鮮やかに感情と世界を彩った点にある。それ故に、瞳美の目に映る花火に色がついていく様は、尊く美しいものになるのだ。

このエピソードは、まさに「色づく世界」を物語と表現の両側から体現したのだ。

 

 

 

以上です。いかがでしたか。

最近見たということもあってか、冬アニメに選出が偏ってしまいましたが、今年は本当に質の高いアニメを多く見ることができました。

特にこの中では『宇宙よりも遠い場所』など、大きな衝撃を受けた作品がありました。またアニメーション映画でも、『リズと青い鳥』など多くの傑作が出現しました。よい作品をたくさん見れる幸せを噛み締めて今年を締めくくれそうです。

 

 

 

29日からはコミックマーケット95が開催されます。私は二媒体に論考を書いております。

 

1日目→「Snow Rabbit」東ヘ27b

『月刊うさしん』

「ポスト日常系試論-『こみっくがーるず』の出現」

こちらは個人誌です。

 

3日目→「『アニメクリティーク』刊行会」東J37b

『アニクリ vol.9.0』

山田尚子の見るセカイ-『涼宮ハルヒの溜息I』試論」

こちらは合同誌の寄稿論考です。

 

冬コミいらっしゃる方は是非こちらのブースにお越しください。よろしくお願いします。