okamurashinnのブログ

表象文化論、アニメーション、キャラクター文化、現代美術に興味があります。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動式手記人形-』レビューver.1

ネタバレを含みますが、何より作品をご覧になった方に読んでもらいたいレビューです。ご留意ください。

 

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公開日、新宿ピカデリーにて。次作予告のあとには拍手が起こった

アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2018)(以下、『VE』)は、元少女兵が手紙の代筆業を通して様々な人の心に触れ、多くの感情を見つける物語だ。彼女は出会いを通して、無感情の人形から自立した少女へゆっくりと変化していく。

本作はTVシリーズ後の時系列で、主人公・ヴァイオレットと少女・イザベラ、血のつながらない妹・テイラーの関係を追った物語である。二部構成になっており、前半部はイザベラとヴァイオレットの女学校生活、後半部はそれから三年後、テイラーの成長を描く。

 

『VE』では育ての親であるギルベルト亡き後、ヴァイオレットがいかに自立して生きていくかが描かれていた。外伝である本作では、生きるためにあえて別れを選んだ姉妹を取り上げている。私がこの作品を見ていて思い出したのは『リズと青い鳥』(2018)(以下、『リズ』)だ。『リズ』は長年親しくしてきた少女二人が、お互いの幸せのためにあえて離れる選択をする作品で、本作も『リズ』と似たようなテーマを引き継いだ作品に見える。『リズ』は別離までの葛藤と決断を描いているのに対して、本作は離れて暮らさざるを得ない状況の中で何を糧に生きるのかが、切迫した問題として提示される。

 

映像の美麗さもさることながら、非常に緻密な演出と脚本の構成が見事だった。

本シリーズにおいて肝になっているのが「距離」の感覚だ。

例えば『VE』で頻出するタイムラプスは、時間の経過を表現することで「距離」を感じさせる。1,5,6,7,11,13話にタイムラプスは使用されているが、特に11話「もう、誰も死なせたくない」のそれは効果的だった。生き絶えた依頼人・エイダンから託された手紙を届けるため、ヴァイオレットは彼の両親とエイダンの幼馴染・マリアへ手紙を届ける。亡くなったエイダンと生きている彼らの果てしない「距離」が夜明けの空のタイムラプスに託されていた。

本作でもタイムラプスの存在感は大きく、前半部のヴァイオレットとイザベラの泡沫の学園生活や、ベネディクトがイザベラ(エイミー)の居場所を調査する過程を、時の流れそのものとして印象づける。

また、後半部の旅の描写も重要だ。テイラーが自力でたどり着いたライデンの街から、彼女はベネディクトに連れられ、遠く離れたイザベラの居城にバイクで向かうことになる。

心理的な「距離」もここには当然含まれる。イザベラが抱える過去の自分との葛藤は、『VE』で扱われたヴァイオレットが抱えていた過去ともシンクロするのは自明だろう。テイラーに姉らしいことを何もしてやれなかったエイミー(イザベラ)と戦時中に“兵機”として多くの命を奪ってきたヴァイオレット。二人はともに向き合わなければならない過去を持っていたのだ。本作前半部では、鏡やガラス、瞳にイザベラ、ヴァイオレットが映り込むシーンが散見される。過去の自分と現在の自分のズレを表現する巧みな演出が光っていた。

散りばめられたタイムラプス、後半部のバイク旅、前半部の鏡像など、本作でも「距離」を手紙でつなぐというテーマを踏襲した演出をしている。このように数少ない事例ながらも、本作は物語レベルを意識した高度な演出がなされていたことがよく分かる。「人には届けたい想いがあるのです。届かなくていい手紙なんてないのですよ」というヴァイオレットの言葉とともに、「距離」を超えて手紙は必ず人と人をつなぐのだ。

 

『VE』ではひたすら過去と格闘していたヴァイオレットが、これから未来を生きていくための理由を見つけるエピソードとして、本作はシリーズ全体の価値を高める内容になっている。イザベラ(エイミー)の身の上話が明かされる前半部ラストから、妹のテイラーがメインになる後半部への展開も見事だった。(パンフレットによると、元々は二話ほどのOVA企画を予定していたとのこと。)単体で見ても、同じく外伝という形式に収まる『リズ』と比較できる完成度であるし、続編としても『VE』で物足りなかった物語面を補強しているという点で、素晴らしい作品になったのではないだろうか。

『VE』続編として高い完成度を誇る本作だが、同時に『リズ』以後を描く作品としても優れている。冒頭で指摘したように本作も別離の物語であり、希美とみぞれのこれからを描く作品にも見えるのだ。手紙は「dis joint」を「joint」にする力を秘めていると、私は思った。

 

 

 

今回は大雑把な演出・物語レベルでしか作品を見ることができなかったが、2回目でより細かいところも見ていきたいなと。物語レベルで言っても別離を描く作品はアニメに限らず非常に多く、比較検討の選択肢は多いです。僕の観測範囲内でも『宇宙よりも遠い場所』(2018)、『こみっくがーるず』(2018)、『さよならの朝に約束の花をかざろう』(2018)など近年取り上げてきた多くの作品で主要テーマとなっています。

初見での作品の印象を言うと、外伝ということでそこまで期待値をしていなかった分、作品の高い完成度に驚かされるばかりでした。特に藤田春香さんは初監督だったということで、今後の監督作品にも期待がかかります。

これからの京アニ作品が楽しみになる一方で、京アニは製作陣の多くを襲撃事件で失い、大変難しい局面にあることは容易に想像できます。『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の公開延期も決定しました。改めて被害者やご家族の身体・精神面での回復をお祈りします。

 

2019年9月8日 岡村真之介

 

2019年9月17日 下線部の加筆修正